Life 99

内省が多い

七間町の映画館

15年ほど昔、高校生のころの思い出。 いまでこそ映画館に出向いてまで映画を見ることが滅多になくなってしまったけど、高校生のころは、よく静岡の映画館に映画を観に行っていた。 映画が特別好きなわけではなかったけど、特別な楽しみだった。

高校は、地元の進学校へ通っていた。 中学のころから家庭内環境が悪化して、私は孤独だった。 親は信じられなくて、もともと一人を好むから友達も作る気がなく一人ぼっちだった。 友達はいらないわけでもなかったけど、私のことを理解してくれる人でなければ友達にならなくていいやと思っていたし、理解してもらうつもりもなかったから、やっぱり一人ぼっちだった。 いま思えば好んで一人でいたし、一人が楽だったからそれでよかった。

高校に入学して、部活は何を思ったのか柔道部に入ったのが間違いだった。 女子がほかにいなかったから練習相手がおらず、男子もあんまり構ってくれなかった。 高1の初夏に親が離婚したのち、家計を理由にバイトを始めたこともあってほどなく私は幽霊部員になった。

高校3年間を振り返ると、私は本当に、本当にダメなヤツだった。 家庭の不幸さを理由に甘えられるところには甘え尽くしていた。 高校は進学校らしく校則は最低限でほぼ無いに等しく「自分のことは自分で責任を持て」というスタンスだったから、ちょっとくらいはみ出しても放っておかれた。 おかげさまで、奇抜な格好をするのも、幽霊部員になるのも、成績が悪いのも、全て「家庭環境が悪い不幸な子」を盾にして好き放題していた。 いま思えば、それでも時折叱ってくれた体育教官室の怖い先生方や数学の先生や古文のおじいちゃん先生は、親身になってくれていたんだろうなぁと思う。 大人になってわかる、愛情をくれた人の有り難み。

離婚後、母は生活費を稼ぐのに精一杯で子供に対して放任になったから、学校でも学校から離れても、私は好き放題に意のまま好き放題生きることができた。 週に3〜4日バイトしてお金を稼いだら、お金はB'zのライブ代か、遊びやCDや服に使った。 (ライブと言っても、B'zが年にツアーしてるのはせいぜい3〜4ヶ月で、行けるのなんて1ツアーに3公演ほどだったからごくスポット的なものだ。)

休みでバイトがない日は、よく静岡の街(静岡駅周辺の栄えているエリア)に一人で出かけた。 電車で10分強、自転車をこいでも45分の距離で、電車で行く日もあればダイエットだと自転車で45分かけて行くこともあった。 買い物スポットは静岡駅ビルのパルシェ、新静岡駅センター(現在のセノバ)、生活創庫(現在の109)、丸井、呉服町エリア。 一人でぶらぶらと呉服町の街並みを歩いているだけで楽しかった。 クリスマスが好きだから、クリスマスに可愛く煌めく街を、クリスマスに彩られたショウウィンドウを眺めながら歩くだけで幸せだった。 一人だから、何にとらわれることも制約を受けることもなく、のんびりブラブラできた。

当時静岡の街には、七間町というエリアに映画館街があった。 (シネコンの進出とともに多くの映画館が閉館となり、現在では「静岡東宝会館」しかなくなってしまった。) どの映画館でどの映画を観たかという詳細は忘れてしまったけれど、お気に入りの俳優が出ている洋画をメインに選んで観ていた記憶がある。 こまめにパンフレットを購入していたから、捨ててなければ実家にまだあるはずだ。

思い出深いのは、ブラッド・ピットハリソン・フォード主演の「デビル」だったと思う。 映画が始まる前にコンタクトが乾くので目薬をさしたら、近くにいたカップルが私を見て 「あのこ、目薬をさすのすごい上手」 とヒソヒソ話していたのをよく覚えてる。 (目薬をピンズドでさせるのがささやかな特技だ。)

さんざん映画を観たのに何を観たのかいちいち覚えてないので、本当に映画好きだったのかと自分で突っ込みたいとこだけど、「一人でぶらぶら気ままに映画館で映画を観る」という行為が気に入っていたんだと思う。 “映画館で高いお金を払って観る”のが大人っぽく(学生料金だけど)てオシャレに思えたし、だからこそ特別感を味わえてた。 上映作品のでかでかとした看板、チケット売り場はおばちゃんの手売りで、埃っぽい赤絨毯のフロア、椅子もスクリーンも古びていて、昭和の香りが色濃く残っている寂れた「劇場」で一人ぼっちを満喫していた。 私の大切な大切な一人の時間をより贅沢に楽しむ象徴が、“映画館で映画を観ること”だったんだと振り返ってみて思う。

いまでは映画館で映画を観ること以上に楽しい趣味を見つけてしまい、わざわざシネコンに足を運ぶことも2〜3年に一度みたいな頻度になってしまった。 だけど当時のトキメキはまだ覚えていて、シネコンよりは趣深い「映画館」に足を運びたいな、とシネコンを訪れるたびに古びた劇場の味わいを思い出し、少しだけノスタルジーに浸っている。

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